こんにちは、ぼたんです。
この本はとても面白いアプローチをされていて、皆さんもご存じな不朽の名作①中島敦の『山月記』、②芥川龍之介の『藪の中』、③太宰治の『走れメロス』、④坂口安吾の『桜の森の満開の下』、⑤森鴎外の『百物語』、これら5作品を森見さん率いる京都の阿呆学生たちにより現代版に表現されたもの。
正直私は元の作品を『山月記』『走れメロス』しか知らなかったのですが、この2作品だけでもしっかり原作の主題やストーリーがリスペクトされたうえで、でも内容はことごとく阿呆で森見さん色全開で本当に面白い。
原作の色を残しながら、ここまでご自身の作品として体現できるものなのか…と驚きです。
しかもこの5作品、それぞれ別の学生が主人公となって独立した話になっているものの、でも5作品の登場人物たちは同時期を学生として過ごした中であり、すべての作品の中でゆるりと繋がりが垣間見え、最後の『百物語』では一堂に会する姿も見られる…。これもまた面白い仕掛けだなあと。
もちろん短編集としてそれぞれの話単位でもとても面白いですし、原作を知らなくても十分楽しめる内容となっています。
「山月記」
大長編小説の完成を目指し、一心不乱に執筆活動に勤しむ斎藤秀太郎。
自分の才能は言葉を操り作品を書くこと…。普通に学生生活を送り、普通に社会へ出て働く周りの人々を軽蔑しているようなところも。
ある女子が斎藤へ恋をしようとも、執筆を大事に、恋心に現を抜かすこともせず。
留年や休学を駆使し大学入学から11年…、突如行方不明となる。
ちょうど同じころ、大文字山では山に近づくものが次々に怪異に襲われるという風変わりな事件が相次ぐ。
執筆に執念を燃やしてきた斎藤は、果たしてどこへ行ってしまったのか…。
「藪の中」
とある映画サークルが文化祭で上映した作品が物議をかもす。
各関係者からの視点で徐々にその作品の制作過程が語られ、その映画に込められた想いが明らかになっていく…。
屋上で逢う元恋人同士の男女が、共通の想い出を語り合いながら次第にヨリを戻していく、というストーリの映画。
監督・脚本・撮影はすべて、サークル内でも才能を認められた「三羽烏」の一角、鵜山。
主演は鵜山の彼女でもある長谷川さんと、長谷川さんの元彼であり鵜山の親友の渡邊。
映画で2人によって語られる過去の思い出は、実際に2人が実体験してきたものばかり。
実の彼女と親友に、過去2人が付き合っていたころの思い出を語らせる。
そしてそれを自分でカメラに収める。
果たして、鵜山がこんな苦い映画を撮影する意味とは…。
「走れメロス」
芽野史郎は激怒した。
「たまには講義に出てみるか」と大学へ足を向けてみれば、彼に断りもなく学園際のためにいっさいの講義が休校。
仕方なくしっかり学園祭を楽しみ校内を回っていると、図書館警察により所属する詭弁論部の部室が乗っ取られていた。
図書館警察長官に逆らえば、彼の有する細かな情報網から吸い上げられたありとあらゆる秘密が全学部の掲示板に貼り出される…。
そんなことにも臆さず、長官へ部室の返還を求め抗議の声をあげる芽野。
もちろん長官もタダでは応じず、芽野へある条件を提示する。
応じたいところだが芽野は大事な姉の結婚式があるため(ウソ)、人質として親友の芹那を置いていくと提案。
自分が決められた時間までに戻らなければ、芹那が自分の代わりにその条件を呑むと…。
芹那の期待に応えるため、決して約束を守ってはいけないと逃げ回る芽野。
芽野はそう簡単に約束を守るヤツではないと、静かに約束の時間を待つ芹那。
二人のひねくれた友情愛が、心に傷を負ったある一人の学生を救う――!?
「桜の森の満開の下」
男は早朝の誰もいないひっそりとした桜並木が怖かった。
大学四年の春、早朝の「哲学の道」の桜並木へ思い切って出かけることに。
そこである酔っ払いの女と出会い、彼の人生は大きく変わっていく…。
小説を書くのが好きで、斎藤秀太郎を師と仰いでいた男。
自作の小説を書いては斎藤の元へ持っていき、添削をしてもらうのが楽しみだった。
女は斎藤の修正した作品が好きではなかった。
女の言う通りに小説を書いていると、男の作品は賞を獲り、メディア化し、みるみるうちに売れっ子作家への道を進んでいった。
女のおかげで小説家として大成した男。
忙しい日々を過ごしているうちに、果たして自分が目指していたのはこんな自分だったのか…と思い悩む。
違和感が膨れ上がって破裂しそうになったその時、男が向かった先とは…。
「百物語」
百物語:
大勢の人が座敷に集まって100本のろうそくを立て、怪談が一つ語り終わるごとにロウソクを吹き消していくという遊び。
学部で同じクラスのF君に誘われ、百物語へ参加することにした森見。
学生劇団の主催者で、関西では有名な鹿島さんによる今回の計画。
徹底的に裏方に回り、劇団員たちですら鹿島さんがどんな人なのか上手く述べられないという、秘密のベールに包まれた存在。
開催場所へ集合し、斎藤をはじめとした面々と合流し開始を待つ森見。
時折ふと視界に収まる謎の男。みんなで輪になって語らっている間にも、誰と話しをするでもなく静かに輪の中に参加している。
開始時刻が近付くころ、森見は億劫になってしまい会場を去る。
門のところにはあの謎の男が立っていた。
果たして謎の男は何者なのか。
そして阿呆学生たちが会した百物語は、平和に幕を閉じたのか…。
最後に
ちょっと落ち込んだとき、くすりと笑いたいとき、森見さんの作品は悩みを軽くして元気をくれる処方箋のような存在です。
軽快な語り口で、言い回しは堅そうにみえて内容がとにかくしょうもなくて。
でも私もそんな阿呆学生時代を楽しんできたからこそ、森見作品に出てくる学生たちを応援したくなって、共感できて、ツッコミたくなって、笑える。
ここまでまっすぐ阿呆でいられることへの尊敬とか、羨ましさみたいなものもあるのだと思う。
まだ森見さん作品を読んだことがない方がいらっしゃいましたら、どの作品も本当に面白いですので目に入ったその一冊、一読の価値ありです!
ぼたん🌸
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