こんばんは、ぼたんです。
2023年本屋大賞の大賞受賞作、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』。
もどかしくて苦しくて、でも登場人物たちの気持ちも痛いほど伝わる。
フィクションと言い切れないほど、リアルで新しい価値観を感じられる一作。
あらすじ
瀬戸内海の島で生まれ育った高校生の暁海(あきみ)と、母親の恋愛に振り回され転校してきた櫂(かい)。
暁海の家は父親が他の女性の元へ身を寄せてしまい、母親はそのショックから心を壊し、娘に依存執着するようになってしまった。
櫂の母親は恋愛体質で、好きな男を追ってこの島にやって来た。次々と男に惚れては夢中になり、騙され傷つくのを繰り返し、そのたびに櫂に縋る。
似たような境遇で孤独を抱える2人は、自然と惹かれ合う。
高校卒業後、櫂は漫画連載の夢を追って東京へ。暁海も一緒に東京行きを考えていたが、母親を1人残して離れられる状態になく、断腸の思いで島に残ることを決める。
夢が軌道に乗り、東京の街に染められ、少しずつ変わっていく櫂。
たくさんの気持ちを我慢し、母の面倒に家のことに、押しつぶされそうになりながら変わらない生活を送る暁海。
お互いのことを好きな気持ちは変わらないはずなのに、少しずつすれ違ってしまう2人の関係。
全く予想のつかなかった後半の展開とラストに、気づくと涙がこぼれてる。
「自由に生きる」ことについて考えさせられる一冊。
感想
プロローグから入っていくのですが、ここでは暁海が夫が出かけるのを見送るシーン。
夫はこの週末限定で他の女性の元へ向かう。しかも、それは妻である暁海も公認。
それに気づいたご近所さんが暁海を励ますも、「私は、大丈夫です」の返答。
帰宅する娘。父の外出は娘も公認で、日常の風景。
もうこの時点で軽いジャブを入れられている。
プロローグの段階では、暁海が過去に男性問題で何かやらかし、夫は他の女性へ心移りしてしまった。しかし別れることはなく夫婦生活を続けるが、夫が他の女性と浮気することを認めざるを得ないのか…?
暁海にはそんな寂しい女性のイメージを抱きました。
いざ本編が始まると、夫が他の女性のもとへ出ていってしまったのは暁海の母親の状況であり、プロローグで出てきた暁海はその夫婦の娘だった。
男に裏切られながら心を壊した母親を近くで見て支えてきたから、暁海は大人になって結婚して、男性が浮気をしようと容認し上手く夫婦生活が続けられるよう良い妻を演じていたのか…?と混乱しながらつい考えてしまう。
本編が終わってエピローグ。プロローグと同じ場面が繰り返される。
でも、プロローグのときのように暁海を可哀そうなど思わない。新しいカタチでお互いを守る、素敵な家族の日常の一コマだった。
高校生の2人にこの現実…重たい!
それでも前を向いて生きていこうとする健気さというか心意気を応援したくなる。
お互いのことが好きなんだけど、年を重ねて存在に慣れていって、櫂が東京に染まっていく気持ちもわかる。
母親を責めたい気持ちをぐっとこらえて、櫂に対して”物分かりのいい女”を演じてみたりしちゃう暁海の強がりもわかる。
でも違うの、早く気づいて!ってもどかしくて。
個人的に登場人物で一番好きなのは、北原先生。
暁海と櫂の高校の先生で、訳ありシングルファザー。
櫂の母親が騒ぎを起こした時にたまたま通りすがり、それ以来ことあるごとに2人を見守り、助ける。
淡々としているようで、実はある一点にだけ情熱的でそれ以外はどうでもいい人で、先生としてあるまじき対応だけどたぶん本当は大正解で…
一番は「互助会」の提案が私はぐっと惹かれた。
社会人になって、櫂との関係・母親との関係に押しつぶされそうになる暁海に手を差し伸べる北原先生。突如結婚の提案。
先生は、娘が大きくなってこの先1人で生きていく不安がある。
暁海は生活の経済面と母親との暮らしに不安がある。
お互いを助け合う互助会会員として、結婚という選択を提案する。
…新しい考え方でとても面白い!!
しかも北原先生、本当に突然すぎるんですよ。
全体的にLGBTとか、女性の生き方とか、いくつかの社会問題を織り交ぜたような内容にもなっていて、本当に現代の誰かの生活を覗いているかのようなリアリティ。
刺さったことば
心に刺さることばがたくさんあった。
「暁海ちゃんは好きに生きていいの」
「そんなの自分勝手です。許されない」
「誰が許さないの?」
「自分の人生を生きることを、他の誰かに許されたいの?」
「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でもわたしの経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」
「いざってときは誰に罵られようが切り捨てる、もしくは誰に恨まれようが手に入れる。そういう覚悟がないと、人生はどんどん複雑になっていくわよ」
“俺たちは親につかまれた手を離せない。振り払ってしまえば楽なのに、それがわかっているのに、俺たちは、どうしようもなく、愛を欲している。”
“わたしにとって、愛は優しい形をしていない。どうか元気でいて、幸せでいて、わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで。愛と呪いと祈りは似ている。”
「自分で自分を養える、それは人が生きていく上での最低限の武器です」
“パートナーがいてもいなくても、子供がいてもいなくても、自分の足で立てること。それは自分を守るためでもあり、自分の弱さを誰かに肩代わりさせないということでもある。人は群れで生きる動物だけれど、助け合いと依存は違うから――。”
心にずしんと重みを感じられる一冊です。
読む前と後では、きっと自分が変わったように感じられる。
ぼたん🌸
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