こんばんは、ぼたんです。
『虹の岬の喫茶店』
千葉県鋸南町に実在する喫茶店をモチーフに描かれた作品で、穏やかであたたかい気持ちに浸りたいときにおすすめしたい一冊です。
とある岬で喫茶店を営む店主・柏木悦子さん。
数十年前に病で夫を亡くし、夫が気に入っていたこの岬で暮らし始める。
画家だった夫が描いた、この岬から見える美しい虹の風景をこの目で見られる日を夢見て…。
この本は岬の喫茶店を舞台に、短編集のように主人公が入れ替わりながら話が進んでいきます。
第一章では、妻を亡くした男とその幼い娘が、虹探しの冒険をしているうちにこの喫茶店にたどり着くお話。
妻を亡くし立ち直りきれていなかった男性が、店主・悦子さんとの交流を経て大切な幸せに気づいていく。
そして陶芸家をしているこの男性は、お礼にと、その後自身で制作したマグカップを悦子さんへ送ります。
その後の別の話の中でも何度か登場し、この場所でいろんな人の人生が交錯しながら時間がつながっているんだなあとほっこりします。
第二章は甘酸っぱい恋の始まりの物語。
就活中の大学生・イマケンは就活のストレスを発散すべくバイクに乗りツーリングへ。
…がしかしバイクはガス欠、本人は便意を催し、すがるように道中で見つけたこの喫茶店へたどり着く。
そこで出会った常連で画家志望の大学生・みどりちゃんにひとめぼれ。
その日は一度帰宅し、ガソリンを分けてもらったお礼に後日改めてこの喫茶店を訪れる。みどりちゃんがお店に来る月曜日を狙って。
本人は気づかれまいとクールに振る舞うも、悦子さんに見抜かれたじたじ…。
悦子さんと、悦子さんの甥・浩司背中を押され、就活に恋に新たな一歩を踏み出していく。
「昔からね、夏と、恋と、『ガールズ・オン・ザ・ビーチ』はセット売りなのよ」
第三章は、なんと喫茶店に泥棒が忍び込んでくるお話。
刃物の「研ぎ屋」であった男は、妻と娘が家出し、自身は借金取りから逃げるために夜逃げ。生き延びるために人生初の泥棒を決行することに。
そんな泥棒の侵入に気づいた悦子さんは、いつもどおり「いらっしゃいませ」とあたたかく迎え入れる。
毒気を抜かれた泥棒は、どんどん悦子さんのペースに飲み込まれ、悦子さんの粋な計らいにより人生をやり直していくことを決める。
「生きるって、祈ることなのよ」
「人はね、いつかこうなりたいっていうイメージを持って、それを心の中で祈っているときは生きていけるの。どんなことがあってもね。でも、夢とか希望とかをなくして、祈るものがなくなっちゃうと、つい道を誤ったりするものなのよ」
第四章は、常連さんが抱く悦子さんへの恋心のお話。
お店の常連タニさんは、長いこと悦子さんへ恋心を抱いていた。
ラブレター代わりに喫茶店で毎回『ラヴ・ミー・テンダー』の曲をリクエストするも、「ただこの曲が好きな人」と全く伝わらず…。
そんなタニさんは仕事の都合で関西へ転勤に。最後の別れと、最後にもう一度気持ちを伝えようとお店を訪れるが…。
第五章は、悦子さんの甥・浩司さんのお話。
喫茶店の横でのんびりとライブハウスを自らの手で建築中の浩司さん。
昔は暴走族の総長などもやっていたほどの不良で、そんな彼を変えてくれたのが悦子さんとバンドメンバー。
当時本気で夢を追いかけていたメンバーたちは、ある件をきっかけに解散してしまう。
しかし20年近く経った今、もう一度あのメンバーで集まって音楽がしたいと、新たに夢を追いかけコツコツとライブハウスをつくり続ける浩司さん。
完成したライブハウスでまたメンバー全員で音楽を奏でられるのか…大人の青春物語。
「過去を懐かしむことが出来るってことは、あなたたち二人はきっと、いまの自分自身をちゃんと大事に思えてるってことだと思うわ」
第六章は、悦子さんのお話。
ここまでの第五章までですでに数年の時が過ぎており、悦子さんの歳を重ねた身体には喫茶店の仕事の負担がこれまでより大きく感じられるように。
希望を抱き待ち続けたあの虹の風景も、この岬に来て数十年経った今でも見れずにいる。
あの虹を見るためにここまで頑張ってきたが…。心がくじけそうになる悦子さん。
そんな折に通過する台風に、世界も悦子さんの心もどんどん荒れていく。
しかし台風が過ぎ、外へ出るとそこには――?
悦子さんのお人柄が本当にあたたかくて、この物語で出てくるみんなが悦子さんに救われ、癒され、背中を押され、各自の人生を生きていく。
他の章でのお話が、また違う章で出てきたり、この喫茶店でいろんな人の時間が刻まれているんだなと感じる演出もまたいい。
ゆっくり読めて、読み終わるとじんわり心にあたたかさが広がる、素敵な一冊です。
少し前に吉永小百合さん主演で映像化もされていたようなので、そちらも観てみたいなあと思います。
ぼたん🌸
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